えさ台に鳩がくる

日々の思ったこと、書く

超短編小説ーある日の食堂 

 男と女が入ってきた。女は男よりも一回り、ともすれば二回りも年下に見えた。男には首から大きな一眼レフカメラを提げているほかこれといった特徴はなかった。きっとモデルとアマチュア・カメラマンなのだろう。どしどしと食堂の奥にすすむ一眼レフカメラの後ろをちょこちょこと女性はついていった。
「ここはねえ、玉子焼きが美味いんだよ」
男は、得意げにそう言った。女の方は、少し間をおいてから
「玉子焼き、えへへ……玉子焼き……」
と呟くばかりであった。
 私は、食事代を払うと、店を出た。摩天楼の間にのぞく小川のような空を見上
げて一眼レフだけは買うまいと心に誓った。